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現代人は、たった15万年前にアフリカにいたわずか数千人の母集団から始まった(2008年07月26日)
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現代人は、たった15万年前にアフリカにいたわずか数千人の母集団から始まった



先日(2008年7月22日)、NHKの爆笑問題のニッポンの教養「どこから来たのか、ニッポンのヒト」を見た。なかなかおもしろかったので、内容を紹介したい。


今回登場するのは、国立科学博物館の篠田謙一氏。彼は、遺跡から発掘される人骨からミトコンドリアDNAを抽出して分析し、人類の系統樹を作っている。もちろん、ミトコンドリアは必ず母系遺伝するという前提に関しても諸説があるので、あくまで一データとして見る必要があるが、これはこれでなかなか興味深い。


※mt-DNAによる分子時計の根拠については、以前まとめたことがある。

 ミトコンドリアDNA解析による進化系統樹の適用範囲は?
 ミトコンドリアDNA解析による進化系統樹の適用範囲は?
 分子時計の根拠は?


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※画像はhttp://www.kahaku.go.jp/my_reserch/06/shinoda/index.htmlより

これ↑は、番組にもちょろっと出てきた図解。実際、番組での中心的に使われたのは、もっと細かく分類してあるドでかい系統図だったが…

この研究によると、現代人に直接繋がるのは、たった15万年くらい前に東アフリカに住んでいたわずか数千人くらいの群れである…ということになる。その母集団が現代人65億人となって世界中に広がっているのだ。

人類史(チンパンジーと共通の祖先から枝分かれした)は500万年と言われている。多くの人類の亜種が生まれ、絶滅していった。そして、何度かアフリカ大陸を出た亜種もいたが(北京原人、ネアンデルタール人など)、ことごとく生き残ることはできなかった。

ホモ・サピエンス・サピエンスは、15万/500万…つまり人類史のたった3%を生きてきたにすぎないのだ。

番組ではさらに、篠田教授はこんな世界地図を使って解説してく。

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※篠田謙一著「日本人になった祖先たち」-副題:DNAから解明するその多元的構造-の、人類の拡散のプロセス図

アフリカを出て世界に拡がったのは、東アフリカに生きていた数千人の初期ホモサピエンスの子孫のうち、わずか10万年前より最近、たまたま(何らかの事故で?)紅海をアラビア半島に渡った、たった数百人の人類集団だったことが類推されるという。

要するにヨーロッパ人もアジア人もインディアンも、遺伝的にはたいして変らないということである。

メディアではアメリカの大統領に黒人がなるかもしれない…などと大騒ぎしているが、もともと「人種」などという概念は、ヨーロッパ人が有色人種を大量虐殺し奴隷として支配する口実としてでっち上げた、ほとんど科学的根拠の無い幻想にすぎないということである。

いまだに、「人種」に過剰にこだわり対立を煽る人や、「人種的に己の方が優位だ」などというタワゴトを未だに吐いている人は、この事実を真摯に受け止める必要があるだろう。

65億にものぼる人類のルーツをたどると、すべて東アフリカのわずか数千人のグループに行き着き、しかもその歴史はたった15万年ほどしかない…。それは、生物史において、ほんの一瞬のできごとである。

全ての人類に共通する基本的な特徴↓は、亜種が次々と現れては滅んでいく、人類史数百万年の間に育まれてきた。

るいネット 人類の本性は共同性にある
るいネット 人類の本性は共同性にある
共認機能という概念

チンケな「人種」「民族」「国家」などの観念や、それこそ頭の中だけで純粋に捏造された「宗教」なんかを理由に起こっている戦争や紛争が世界では後を絶たないが、もう一度、この科学的事実に立脚して人類というものを捉えなおす時期に来ているのではないかという気がする。

最後は、篠田氏が番組中で言ったこの言葉で締めたい。

私なんかこういう仕事をしていて感じるのは、これをやってもね、いくらやっていても国が出てこないんですよ。

どこに行っても国が出てこないんですよね。

で、ある時何かこうやってみんなが分かれたところに、こうやって定規で線を引っ張って「ここは私の国!」っていう感じにしているのかな、というふうにも思うんですけどね。