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宇宙塵自身が生命であることに言及した 100年前のノーベル賞学者の実験 のフレッド・ホイル博士の著作より抜粋。
In Deep 2011.05.07


バクテリアは星間空間で生きてゆけるか



 1世紀あまり昔に、スウェーデンの物理化学者スヴァンテ・アレニウスは、バクテリアの胞子のような微小な粒子なら、光の圧力を受けて宇宙空間を旅することが可能であると計算した。もちろん、この仮説には、バクテリアが宇宙空間の苛酷なコンディションに耐えられることが前提とされる。

 この前提に問題がないことを示すために、アレニウスは、バクテリアの胞子が信じがたいほど強靱であることを強調した。彼は、ロンドンのジェンナー研究所で、バクテリアの胞子をマイナス252度の液体水素の中で 20時間保存しても発芽能力を失わないことが証明されたこと、および、マイナス200度の液体空気の中で微生物の繁殖能力をそこなうことなく6ヶ月のあいだ保存できることを実験的に証明したことを根拠に、バクテリアの胞子が星間空間なみの低温にも耐えられると言った。

 さらにアレニウスは、生物を消耗させる生化学的なプロセスは、低温では非常にゆっくりとしか進行しないことを挙げ、宇宙空間の極端な低温は、バクテリアの胞子にとって最も効果的な保存法として作用するだろうと言った。そうであるなら、常温下の活動状態にある場合にはとても不可能な、長い、長い旅を終えた種子が、新しい環境のもとでふたたび繁殖し始めると考えても、おかしくはない。

 彼の仮説に対しては、バクテリアがいかに丈夫であったとしても、宇宙空間のX線や紫外線には耐えられないだろう」という批判がなされるのが常である。

 アレニウスは宇宙空間にX線が存在することは知らなかったが、太陽光線に含まれる紫外線が生物の細胞にダメージを与える可能性については気付いていた。彼は、この点につき、楽観説をとったが、そこがオパーリンらの猛攻撃を受けた。

 確かに、X線や紫外線は、生物の遺伝子を破壊する。しかし、ある種のバクテリアにはX線に対する高い耐性があることが知られている。マイクロコッカス・ラディオフィリオという単球菌の仲間のバクテリアに強力なX線を照射する実験を行ったところ、その DNA 分子は1万以上の微小な断片になってしまった。ところが、そのバクテリアは、このすさまじい破壊から回復し、蘇生してきたのである。

 また、グラファイト状の物質からなる厚さ1万分の数ミリメートルの、きわめて薄い外殻をバクテリアのまわりにつければ、紫外線による破壊から内部を完全に保護することができる。そして、生体物質が無酸素状態の中で分解されると、最終的にはグラファイトになることは、よく知られている。いくつかのバクテリアが塊になって宇宙を漂うなら、内側のバクテリアは、ほぼ完全に保護されるだろうし、バクテリアの胞子が暗黒星雲の中にある場合や、彗星や隕石の中に埋もれた状態でいるなら、生命の危険はさらに軽減される。

 われわれの実験でも、バクテリアは、0気圧にも、1平方センチメートルあたり 10トンの圧力にも耐えた。極低温にも、600度までの瞬間的な加熱にも耐えた。

 銀河を旅するのに、バクテリアほど適した形態はない。

 いや、バクテリアの数々の驚異的な性質は、宇宙を旅するために発達したような気さえしてこないだろうか?