History of Turntablism and Scratch

ターンテーブリズムとスクラッチの歴史と貢献したDJと音楽家たち



2つのレコードレーベル

Hip Hop SlamとBomb Hip Hop



Bomb Hip Hopのレーベルロゴ。




スクラッチとターンテーブリズムを語る際に、その発展に大きく寄与した2つの独立系レーベルの存在を忘れてはいけないでしょう。

それは、共にアメリカのHip Hop SlamレーベルとBomb Hip Hopレーベルです。

いずれのレーベルの作品もDJやターンテーブリストの人なら必ず何枚かは持っていると思います。
何しろ、ターンテーブリストのアーティストの作品はかつてはほとんど、この2つのレーベルからして出ていなかったのです。



[Hip Hop Slam]
Q-Bertの音を世に出したもっとも過激で先鋭的なレーベル


オークランドに本拠地があるHip Hop Slamは、1986年のラジオでのラップコンサートにその活動を遡ります。
その
後、ベイエリアでのラジオ放送で、積極的にターンテーブル・ミュージックとアンダーグラウンドHIP HOPを流し続けます。攻撃的な歌詞と曲調により、何度か放送中止の憂き目に晒されますが、1991年にはレコードレーベルとしてのHip Hop Slamを設立します。

前述した、The Bullet Proof Space Travelers[ザ・ブレット・プルーフ・スペース・トラベラーズ]の各DJ(DJ Marz、DJ Quest、Eddie Dfeのソロを出している)の作品を出したのもここですし、何より彼らの初期活動して最大の功績は、1995年に「The Shiggar Fraggar Show」シリーズを出したことでしょう。
頭に紙袋を被ったDJのモノクロ写真ジャケットの奇妙なCDを見たことがある方も多いでしょう。


Shiggar Fraggarという人物に関しては今に至るまで、その正体はわかりませんし、公表されてもいません。ジャケットでも頭に紙袋を被り、正体を隠し続けています。

ともかく、彼は、まだ有名とは言い難かった、Invisible Skratch Piklz[インヴィジブル・スクラッチ・ピクルズ]を見出し、彼らとの共同作品として、この「The Shiggar Fraggar Show」シリーズを出したということが大変に重要なことでなんです。
Invisibl Skratch Piklzは言うまでもなく、Q-Bert、Disk、DJ Shortkutによるスクラッチ集団で、同じ西海岸で生まれたThe Bullet Proof Space Travelersと同じく、スクラッチ文化の拡大に決定的に影響を与えたユニットです。
「The Shiggar Fraggar Show」シリーズは、Mix Master Mikeなどをも参入させ、合計5タイトルが発売されます。

当時のCDレビューを読むと、「もし、あなたがスクラッチ音楽というものに興味がないのなら、このアルバムは単にうるさくて不快なノイズに過ぎないだろう」と書かれていました。
多分、このアルバムを評価するスタンスとしては最大の賛辞だったと思います。
まさにその通りで、このアルバムの発表から10年近くが経ちますが、今においても多分、全編が「スクラッチだけ」で構成されているというアルバムは出ていません。
ガレージなどでスクラッチを好き放題にしている生の音をそのまま録音している、そんな作品で、このアルバムが「この世にスクラッチ音楽というものが出現した」ということを世に知らしめた最初の過激な作品だと思います。


▲ Shiggar Fraggar Showのビデオ。



いずれにしても、Hip Hop Slamは現在まで、ターンテーブル音楽を軸に、作品を出し続けています。
これから先、流行やスタイルが変わることもあるでしょうが、レーベル創設者のチャレンジ性を見ても、いつでも「反逆者」であるような気がします。




[Bom Hip Hop]

スクラッチオムニバスの金字塔「The Return of the DJ」を発表

1996年に「The Return of the DJ」というアルバムが発売されます。
これは今までラップのバック・ミュージシャンでしかなかったDJたちが、自分だけの音楽を発表した歴史的なオムニバスアルバムです。

リリースしたレコードレーベルは「Bomb Hip Hop」という聞き慣れないレーベルでしたが、このBomb Hip Hopレーベルこそがその後10年に渡り、スクラッチ、ターンテーブル音楽をHip Hop Slamと並び、ほぼ独占にも近い状態でリリースし続けることになります。

Bomb Hip Hopレーベルの前身は、自主系音楽雑誌「Bomb」で、1991年に創刊されています。
自主系雑誌として、HIP HOPに影響を与え続けた後に、1996年に「The Return of the DJ」をリリース。
このアルバムは世のDJたちに大きな影響を与え、また、多くのDJたちがBomb Hip Hopを訪れ、それぞれが初の自身のアルバムを発表することになるのです。
Cut Chemist、Qbert、DJ Craze、Z-Trip、X-Ecutioners、DJ Honda、Kid Koala、Mix Master Mike、Roc Raida等、挙げればキリがありません。

1999年には「ローリングストーン誌」から、「重要である独立系レーベル」としてのランクも付与されることになります。

現在まで、50以上のアンダーグラウンドHIP HOP、ターンテーブリズムアルバムを発表しています。
「The Return of the DJ」はコンスタントにリリースされていて、今ででに7タイトル近くが出ていて、ターンテーブリストたちが聴く基本アルバムともなっています。

この2つのレコードレーベルがなければ、多くのターンテーブリストたちの音は世に出なかったか、あるいは、出るのが少し後のことになっていたはずです。そういう意味でも、Hip Hopの歴史上、極めて大きな役割を果たしたレーベルだということが言えるはずです。


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