History of Turntablism and Scratch

ターンテーブリズムとスクラッチの歴史と貢献したDJと音楽家たち


これからの問題と展望





スクラッチ文化は1990年代に入り、飛躍的に発展し、また、DJの役割や立場も大きく広がりました。
スキルやテクニックというものも急速に向上し、ほぼこれ以上のスキルアップは人間ワザではないというレベルにまで達しようとしています。

しかし、問題点がないわけではありません。

まず、これはDJ Shadow
[ディージェイ・シャドウ]などがいつもインタビューなどにも語ることですが、「スクラッチアーティストたちの作る音楽の類似性」があります。
つまり、誰が作っても似たような音楽になる傾向があるということです。
世の中にはいろいろなジャンルの音楽がありますが、どのジャンルでもプレイヤーが増えて、スキルが向上していくと、音楽性については広がりを見せるのが普 通ですが、スクラッチ音楽の場合はスキルが向上すればするほど、似たような音楽となっていくという部分は確かにあります。
それはスクラッチ自体が「レコードをこすって生じる音を構築していく」ということにも繋がるわけですが、音楽性を無視して、スクラッチスキルの披露となっていく場合に、音楽の類似性の傾向は顕著になります。

これを回避するためには、「DJの本来の役割に立ち返ってみることだ」という意見があります。
つまり、様々なレコードを操るというのが、DJたちの役割だとすると、「そのレコードの質そのものを追求していく」ということです。
前述したDJ Shadowは、スクラッチスキルではなく、「どれだけたくさんの音楽と出会い、それをどのように再構成していくかが大事で、そこにこのジャンルの音楽の将来がかかっている」とも言っています。
また、レコードの選択は、それがレコードであればいいわけでもあり、レコードの選択に関しての実験性も非常に高まっています。子供用の教育レコード、医療 解説レコード、古い朗読、詩のレコード、ミュージカル、クラシック。ハードロック、と、様々なジャンルの音楽をミックスさせることをたくさんのターンテー ブリストが行っています。

スキル的には、Kid Koala[キッド・コアラ]は、それまで2台のターンテーブルを使うのが普通だったところに、「3台のターンテーブルを同時に操る」という試みを行っています。

Kid Koaola

また、ボディ・トリックという、つまり、体を使ったパフォーマンスも重要視されていて、これは最近のDJチャンピオンシップなどでは、結構な重要な要素と なったりもします。The X-ecutionersのRoc Raidaなどは、このジャンルでの先駆者でもあります。

また、DJ Radar
[ディージェイ・ラダー]の ように、「オーケストラの中の楽器」という扱いで演奏を試みている人たちや、The Bullet Proof Space TravelersのDJ Questもチェロや弦楽器との融合を試みています。また、最近のThe X-ecutionersなどのように、Hip Hop以上にロックとの結びつきを強くしている例などもあります。

オーケストラとのコンサートを行うDJ Radar。


また、当然、スクラッチはクラブミュージック全般に対しての音楽文化でもあるわけで、DJ Crazeは今では基本としてドラムンベースのDJですし、また、テクノやガバなどのジャンルにもスクラッチは介入しています。ただ、本流がHip Hopにあるといってもさほど間違いではないでしょう。


これからどういう展開を見せていくかは、ポピュラー音楽そのものの変遷に寄り沿う部分があるのは仕方がないでしょう。
つまり、今はヒップホップは大変人気がありますが、ヒップホップそのものの人気が廃れた場合に、果たしてスクラッチはどうなるのか、とか、クラブミュー ジック全般の人気傾向が変わったらどうなるのか。激しいビートが人気を博し続けてきたこの数年ですが、ラウンジなどの静かな音楽ばかりが流行し出すと、ス クラッチにはあまり登場の機会はなくなってきます。

いずれにしても、スクラッチは生まれてまだ20数年の歴史の浅い文化です。
今はただ、ターンテーブリズムに関わっている人、興味のある人たちがこの文化がすたれないように、プレイ、あるいは見守っていくというしかないのでしょう。

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