History of Turntablism and Scratch

ターンテーブリズムとスクラッチの歴史と貢献したDJと音楽家たち




RUBBINGからSCRACHへ

Grand Wizard TheodoreとGrandMaster Flash


今では「スクラッチ」というのは総称になっていて、そこにはいろいろな技術が含まれているわけですが、その前身に「Rubbing[ラビング]という技術がありました。直訳すると「こする」という意味で、「Scratch」の「引っ掻く」という意味と大差はないように感じますが、その差は語感のレベルでも実際にスクラッチをやってらっしゃる方にはピンとくるものがあるかもしれません。
[※3][※4]

[※3]「rubbing」というのは技術的にいうと、レコードを「前に押し出して元の位置にまで戻る動作を行う」こと。擬音的には摩擦音が一度出る。それを複数回繰り返すと、摩擦音の連続となり、リズムの一部となる。

[※4]「scratch」の大きな特徴は「逆回転音=リバース」をリズムに取り入れたことで、これがスクラッチの飛躍的な発展に寄与することになる。


「rubbing」を作り出したのは、GrandMaster Flash[グランマスター・フラッシュ]という70年代から活躍していたDJで、彼は2002年の時点までMIX CDを発表している現役のDJでもあります。
そして、この「レコードをこする」というところを起点として、突如、この世に生まれたのが「Scratch」だったのです。


▲スクラッチプレイを披露するGrandMaster Flash。正確な年代は不明だが、これが最初期のスクラッチの様子。



この「scratch」を生み出したのは、Grand Wizard Theodore[グランド・ウィザード・セオドア]で、70年代後半からDJ活動を始め、オールドスクールHIP HOPの歴史を作ったともいわれる「Fantastic Freaks」で活動していたことでも有名です。

彼の功績はもちろん、「この世にスクラッチを登場させた」こともあるのですが、HIP HOPやスクラッチ音楽をパーティ音楽文化として、アメリカや世界の中に定着させたことにあると思います。

日本人にはあまり馴染みがないことかもしれませんが、友人たちが誰かの家に集まり、そこで夜を踊り、遊び過ごす。その中で必要なのは音楽で、誰かが、ある いは交代でレコードを流し、踊りがストップしないように、レコードとレコードの曲間に途切れが生じないように流し続ける。

曲に彩をつけるために、「スクラッチ」をする。
それにより、ノリやリズムはさらに増幅され、パーティは盛り上がる。

こういうことのために始まった些細な文化といっても過言ではないのではないでしょうか。
しかし、このGrand Wizard Theodoreが生み出した「scratch」という「些細な」技術は次第にアメリカの大衆音楽、しかもそれは表にはあまり出ない、ライブ、バーティ文化の中では抜いて語れない大きなカルチャーとなっていきます。
当然、HIP HOPとも強力に結びついていきます。

この文化の流れに早くから貢献した人物として、Jazzy Jay[ジャジー・ジェイ]が挙げられるでしょうか。HIP HOP文化の礎を築いたアフリカ・バンバータに見出された彼は、いち早く、スクラッチをHIP HOP文化に組み入れ、後に「Def Jamレコード」を設立。
DMCITFといったDJバトルの審査員も長く務めました。[※5]

[※5]DMCはDJの世界では非常に知名度と歴史のあるDJバトル・チャンピオンシップ。現在のスクラッチDJでは、DJ CrazeDJ ShortkutRoc Raidaなどが出場歴、あるいはチャンピオン歴のあるDJだ。日本人のDJ KENTAROも2002年にチャンピオンになっている。ITFもやはり人気と伝統のあるチャンピオンシップである。DJ Babu、DJ Relmなどが有名。

そして、この後の1984年に、前述した「RockIt」がグラミー賞を受賞し、そこで使われていたスクラッチが世界中の注目を浴びることになります。

この頃から、HIP HOPとスクラッチの融合はますます強いものとなっていき、今では普通に見られる光景=[ラッパーの後ろでDJがターンテーブルを操っている]がたくさん見られるようになっていったのです。

このあたりにはラップの歴史と併行して語らなければならないこともあるのかもしれませんが、それは省略します。
なぜ、省略するかというと、それはラップの発展にとっては最大の重要事項ではありますが、ターンテープリズムの歴史の中では通過点だからです。
この後、スクラッチはスクラッチ独自としての文化を作っていくことになります。

このラップとスクラッチの関係で、一人、歴史的に重要な人物を挙げておくとすると、Gang Starr[ギャング・スター]のDJとして活躍し、その後、プロデューサーとしてHIP HOPの発展に大きく寄与したDJ Premierでしょうか。



ともあれ、ここまでの歴史で

RUBBING レコードをこすって音を作る
SCRATCH RUBBINGの方法にリバースを加えた音をリズムとして使う

という2つの新しい技法が提唱されたことになります。


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