覚醒の文化 ヒップホップ - Vol.1




インヴィシブル・スクラッチ・ピクルズが音楽世界に与えた震撼(7)



「神様」グランミキサーDXTがいる場所へ



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しかし、彼ら、つまりミックスマスター・マイクとQバートがもっとも嬉しかったのは、「若い時に彼らが憧れてその世界に入った」人たちに正式に認められた時だったのではないでしょうか。

Qバートは、2001年に、グランミキサーDXTから「キミこそが私の正式な後継者だ」と絶賛され、ふたりはステージ上で抱擁します。 グランミキサーDXT・・・。

そう。彼は、まだ、Qバートが少年だった1984年にテレビのグラミー賞コンサートで「ロック・イット」のスクラッチを演奏していた人物です。
Qバートとミックスマスター・マイクが衝撃を受けて、「この道を行く」と人生を変えることとなった、その当人。
その人から、Qバートは正式に認められたのです。

「今はお前たちの時代だ」と。


さて、長くなりましたが、彼らの果たしたもっとも重要なことは何か。
それは実はとても単純で、しかも重要なことです。

それは

彼らが「ヒップホップから人種の壁を取り去った」最大の功労者だということです。

それは彼らがフィリピン系アメリカ人だから、ではありません。

彼らが提示した「DJスキルの相互の精進」という構造の中には人種の概念など入り込む余地はない、という部分が大きいです。概念の中心にあるのが「ターンテーブルに関してのワザと感性」であるので、人種、性別、などは評価の対象の中にはまったく入りません。

なので、この「アメリカのDJの世界」というのは、世界中でもっとも人種が混在して活動する場となったのです。

これは、ミックスマスター・マイクとQバートが提示した世界から始まったことでした。

あの成績の悪い子どもたちだったマイケルとリチャードたちは結構大きなことを自然となし得たのでした。