私は20世紀のパンク少年だった


「カオスのかたまり」を体現するガーゼの音楽



最近、私個人にとって、「世界の頂点にあるロックバンドは何か」という問いに対して、それは日本のハードコアパンクバンド GAUZE(ガーゼ)だと翻然と悟りました。

ガーゼは1980年代から日本のハードコアシーンを牽引してきたキャリア30年パンクスです。メンバーもそろそろ五十代なのではないでしょうか。

実は、私が数年前にこの「Overdose Japan」というサイトを始めるキッカケとなったのがこのガーゼのわりと最近の映像を見たことでした。

80年代初めのガーゼは知っていたのですが、1990年代の終わり頃からは、聞いたことがありませんでした。

そして、その1990年代以降のガーゼのライブを聞いた時の衝撃。

このガーゼの「変容」ともいえるほどの音楽的進化を見て、それらを少しでも紹介したいという思いからはじめたのがこのサイトでした。

衝撃を受けたのは下のビデオのライブです。
彼らの20周年記念ギグです。



これはすごい。
本当にすごいです。

精神性と音楽がリンクした「本当の混沌」を表現することに成功した感があります。「神の音楽」と呼んでも差し支えないと思います。

パンクなどに親しくない方にとっては、これがどんな曲なんだか輪郭さえつかめないかもしれません。

このビデオの曲たちが「どんなメロディで、どんな構成で、何を歌っているのか」、それはまったくわからないかもしれません。

しかし、それはある意味どうでもいいのです。

メロディだとか歌の内容だとかを超越した「音とリズムのかたまりそのもの」がここにあるのです。そして、これは純然としたロックであるわけです。ついにロックはここに到達したという感慨があります。

YouTube でのコメント欄を見ていただければわかると思いますが、日本のバンドなのに、日本語のコメントはほとんどありません。賛辞に次ぐ賛辞のほとんどは外国人によるのものでしょう。パンクもロックも確かに死んだ文化ではあるけれど、こんな形で昇華してもいるのです。

パンクという文化は全体としては確かに滅びました。

商業主義に取り込まれて殺されてしまったのです。

しかし、活動休止を含めながら約30年、彼らはひっそりと、そして、ひたすらに純粋にパンクを高めていっていたのです。

1980年代のガーゼの曲は今とは全然違う、わりとストレートパンク系なのですが、それが今のカオス・パンクの位置にまで登りつめたのに対して、英国などのハードコアはむしろメロディアスになったりして、多くのファンに蔑まされてしまったりしています。

進化論というのがありますが、その過程では多くの「種」が滅びていきます。

そして、一部だけが進化して先に進む。ガーゼはその種目の中で数少ない進化して生き残った人たちなのでしょう。そして、これから加速度的に滅びていくのでしょうが、その時はワタシも一緒に滅びたいと思っています。

1970年から1980年代の一定の期間に生まれたパンクというジャンル。

発祥元のイギリスで朽ち果てて、見捨てられてしまった文化を日本人はそれほど見捨ててはいませんでした。文化は守るもの、伝承する者、発展させる者がいる限りは完全には滅びません。滅び行く文化ではあっても、驚異的な精神性のレベルで滅びていけるのかもしれません。

宇宙に神のようなものがいるなら、この動画のオープニングの曲の「山深雪未溶」を捧げたいと思います。

人類の音楽はやっとここまで来ましたよ」という言葉を添えて。

もう一歩で音楽は音楽でなくなるところまで来ています。

その時に「第6の夜に生まれた様々な試行と価値観」は完成するような気がします。

今、音楽は他のあらゆる価値観とひとつになった「存在そのもの」に向かって動き始めています。