レイモンド・スコットが封印を解いた天使のラッパ - Vol.1

メロトロン以前に存在したふたりの創造神


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日本の音楽家に坂本龍一という人がいます。

最近の活動はあまりよく知らないのですが、今も日本を代表する音楽家のひとりだと思われます。

私がその坂本龍一さんのソロアルバム「B2 UNIT」というものを聞いたのは、高校2年生の時でした。今から、32年前です。それを聞いて「なんて新しい音なんだろう」と感動したものでした。

たとえば、そこにはこういうような曲が入っていました。


坂本龍一/ Not The 6 O'clock News (1980年)



上の曲では、録音された声や生楽器の音などがサンプリングされて使われていますが、この「楽器以外の音が音楽の中で使われる」ようになった歴史は、人類史の中では短い歴史で、最大に古く見積もっても、1960年代くらいになります。

サンプリングと書くと大層な感じですが、それらは、それまでの音楽の概念の中では、要するに「ノイズ / 雑音」です。

その「雑音発生装置」として、正式に発売されたサンプリング楽器としては、1960年代に米国で発表されたメロトロンというものがあります。

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これは、鍵盤がついていますが、簡単にいうと、その下に「ラジカセ」みたいな録音テープ装置がついていて、そこに他の楽器の音を入れると、鍵盤楽器なのに、たとえばパイオリンなどの音が鍵盤から出せるというものです。

ビートルズやレッド・ツェッペリンやキング・クリムゾンら多くのロックバンドが主に、曲の中にストリングス(弦楽の音)を入れるためにこのメロトロンを使いました。

メジャーバンドの中で、メロトロンを含めて最も過激なサンプリングの使い方をしたグループは、メロディメーカーのイメージが強い英国のビートルズでした。1967年の「アイ・アム・ザ・ウォルラス」(私はセイウチ)という曲では、曲間やラストあたりのパートで、前衛とも言える様々な音のサンプリングを試みています。

これがサンプリング技術により、「ポップスにノイズが入り込んだ」最初のできごとだったように思います。

この「サンプリング」という楽器以外の楽器を音楽に転用するための技術が世に出たことが「ポップスの最大の進化」のポイントのひとつであり、新しいカルチャーの黎明期であり、そして・・・ここが大事なのですが、「そういうものを心から欲していた、あるいは開発していた人たちの異常なほどの執念と情熱」が存在します。

それらの系統の最初期のひとりが、私が「音楽の女神」と呼ばせていただいている英国のデリア・ダービーシャー ( Delia Derbyshire )さん(過去記事)で、彼女がその試みをはじめたのは 1960年代のはじめころのことでした。

しかし、デリアさんがおこなったことは大変な偉業ではありながらも、彼女は「音楽のために」それをおこなったところから始まったわけではありませんでした。彼女はラジオ番組の効果音として「職務」としてそれらを作り始めました。



米国にいたパングー様

最近、私は「 1950年代のアメリカに、音楽のためにノイズ/雑音を使い始めた人物がいた」ことを知りました。

それは 1930年代からアメリカでスウィングジャズなどで人気があり、またヒットメーカーであったレイモンド・スコット( Raymond Scott )というミュージシャンでした。彼は 1946年に「突然覚醒」します。

私が最初に聞いた彼の曲は下の曲でした。
映像は私が適当にいれたものです。

レイモンド・スコット - カウンティ・フェア(1946年)



なんと一曲が「すべてサンプリングだけ」で構成されている。

「1940年代?」

私は、急にこの人物に興味を持ち、調べ始めました。



地球の歴史の中での大衆音楽の歴史の比率の短さへの疑問

私自身は「ポップミュージック、あるいは音楽という存在はすでにその進化の過程をすべて終了した」と認識していますが、その大衆音楽の歴史はほぼ100年程度しかありません。私は In Deep の記事などを書いている中で、最近、「現在言われている地球の人類の歴史は長すぎるのでは」と感じることがあります。

ミトコンドリアイブ(In Deep の関連記事)からだけでも、現代の人類の歴史は十数万年あると考えられていますが、

「ほんまかいな」(そうかいな)

という感じがしてきたのです。

これは、ミトコンドリアイブの遺伝子が示す歴史の長さを疑っているのではなく、そこからの「人類の文明史」が本当なのかなということです。ミトコンドリアイブは確かに(どこかに)存在して、そして、私たちすべての今の人類はその末裔のようなものだとしても、その間の「サンプリング楽器が登場しなかった10万年」は長すぎる。

あるいは、「ブルースが登場しなかった10万年」は長すぎる。

人類は「音楽なしでは生きられない存在」だと私は考えていますが、その音楽の最大の多様化が開始されてからたったの100年。大衆音楽の進化の歴史がたった100年しかなく、しかも、その100年のうちに歴史を終了している(私の思うところでは地球の音楽の歴史は 1999年頃に終わっています)。

それなのに、現代人類の(地球での)歴史が10万年以上あるというのがどうも・・・。

ついでにそうなると、地球の歴史もどうなんだろう、とかいろいろと考えてしまうわけです。

このあたり、参考記事としては、 In Deep の「地球の年齢がわからない」という過去記事などとも直結しますが、私自身、地球の歴史は比較的新しいと考えていて、あるいは、もしかすると、「何もかもそんなに歴史を持たないのではないか」というふうにさえ思います。

たとえば、ヌーワを輩出した(輩出って言い方は変ですが)中国古代神話では地球は3万6千年程度で作られています。ヌーワの前に盤古(パングー)という神様がいますが、下はパングー様が地球を作ったくだりです。



宇宙がつくられる前は、それは巨大な混沌とした「卵」だった。
この卵の中に盤古は生まれた。
盤古はこの巨大な卵の中で 18,000年の間眠り続けた。
彼が目覚めた時、卵の中はまだ暗かった。
盤古は、両腕と両脚を伸ばし、卵の殻を突き破り、卵を壊した。
その時、光と陽の「気」が立ち昇り、大きな空がつくられた。

(中略)

空がそれ以上高くなることができなくなり、そして、地球がそれよりも下に行けなくなるまで、さらに 18,000年かかった。

そして、盤古は空と地球を占拠する巨人となった。
そして、このため、宇宙はかつての混沌(カオス)に戻ることはなかった。


中国の天地創造神話 - 盤古より。


しかし、これは実証するような問題ではなく、個人個人の思い入れの問題でいいのだと思います。実際がどうであるかということはどうでもいいことです。

いずれにしても、ヌーワが人類に与えた音楽。
そして、その音楽の爆発的進化はつい最近起きました。

その大衆音楽の進化の最終段階は「サンプリング」と「電子音の登場」だったことは明らかで、たとえば、最近の米国のグラミー賞などを見てみると、主要の部門を獲得している多くがヒップホップだったりするようですが、この「ヒップホップ」というのは、本来、「サンプリング(とスクラッチ)だけで作られる音楽」です。

なので、この「サンプリング」と、そして現在のほぼすべての音楽に使われている「電子音」を最初に地球で「大衆音楽」(芸術音楽ではなく)に転用することを考えたのは誰だったんだろうということはわりとずっと考えていました。

そういう人物がいたとすると、その人は「音楽の新しい段階のはじまりを告げる天使」であると同時に、「大衆音楽の進化の終局」に向けての「ラッパを鳴らした天使」ということもいえます。


その「天使」がいたわけです。

レイモンド・スコットがその人でした。

特に1960年代以降、マンハッタン・リサーチ・スタジオで録音されたレイモンド・スコットのいくつかの音楽は、比喩としていえば、ひとつひとつが、聖書ヨハネの黙示録の「7人の天使のラッパ」に相当するもので、「それによりすべてが変わる」ものでした。

そして、疑問もあります。それは、そのレイモンド・スコットがマンハッタン・リサーチ・スタジオで作り出した音楽が長い間、ほとんど人に知られることがなかったということです。少なくとも米国以外の人たちはほとんど知らなかったと思います。

なぜ、50年近くも封印されていたのか。

そのことを、私も書きながら勉強したいと思います。